経営に関するヒントや考え方など毎月掲載しています。
商売に置いてお金はとても大切なものですが「お金で買えるものと変えないもの」は、区別したいものです。例えば「薬」は買えても「健康」は買えません。「肉は」買えても「筋肉」は買えません。お金で物は手に入っても、健康や筋肉は本人の努力や習慣のたまものです。成功者がSNSで筋肉や美をアピールするのは、お金があるだけでは手に入らないことを実感しているからでしょう。健康や筋肉は、それほどまでにステータスなのです。また「本」は買えても「知識」は買えません。本の内容を自分の言葉で語れるようになって初めて「知識」になるとしたら、その背景には勉強や志といった、お金で買えないものが存在しています。趣味のサークルに会費を払って参加したり、優良の婚活アプリに登録したりと楽に人と知り合えるチャンスが増えたのは良いことだと思います。しかし人間関係を深めていこうと思ったら、素直に自己開示するオープンマインドやコミュニケーションスキル、思いやりや感謝といった人間力が必要となります。つまり「友達」や「出会い」は買えても「友情」や「愛」は買えないというわけです。経営者にとって耳が痛いことを言うならば「地位」は買えても「尊敬」は買えません。「会社」は買えても「実績」は買えません。。その理由は言うまでもなく、だから商売は大変で、だから楽しく、すべて自分次第だと思えば、何を大事にするかが見えてくるのではないのでしょうか。最後に「家」は買えても「家庭」や「家族」は買えません。。当たり前に思っている日々の尊さが改めて実に染みますね
「初心忘るべからず」。人生の中で何十回も見聞きしたこの言葉は、もともと世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝(ふうしかでん)』の中に記されたものです。能楽の文脈で語られた教えが、商売の世界にも通じる普遍的な知恵であることを今一度、思い出してみたいとおもいます。経営者にとって「初心」とは創業時の志や熱意を指します。なぜ会社を立ち上げたのか。誰のために何を実現しようとしたのか。商売を続けていう上で、初心は原点でもあります。同時に「初心」には、常に新たな気持ちで臨むという意味もあります。商売が上向いてくると、慢心やおごりが生まれやすくなります。しかし市場は絶えず変化し、新たな課題が次々と生まれます。そのたびに初心者の目線で状況を見直し、柔軟に対応する姿勢を忘れないようにしたいものです。また「初心忘るべからず」の精神は、イノベーションの源泉にもなります。今までの成功体験に安住せず、新しい価値を作り続けていく挑戦こそが、商売の持続的成長には不可欠でしょう。さらには、顧客や従業員との関係性にも応用できる考え方です。商売が拡大すると、個々の顧客や従業員との距離が遠くなりがちです。新規顧客や今の従業員はもちろん大切ですが、創業期からのご縁に対する感謝を忘れていないでしょうか。今は関りがないとしても、会社を支えてくれた大事なご縁に違いはありません。「初心忘るべからず」は単なる格言ではなく、日々の意思決定や行動の指針となる極めて実践的な心構えです。現状が良くてもそうでなくても、日々初心にかえることができたら、商売も人間性も真の意味で成熟していけるように思います。
仕事上で意見が割れたとき、あなたはどう対処しますか?孔子の『論語』にこんな一説があります。「君子和而不同(君子は和するも動ぜず)」。これは「人と協力することはあっても、人の意見や態度にむやみやたらに同調しない」という教えです。この簡潔な一節には、商売の神髄ともいえる深い英知が秘められています。和するとは調和を保つこと。同ぜずとは、自身の個性を失わなこと。この、一見相反する2つの要素のバランスこそが、商売の成功へとつながる道だと思います。たとえ少人数の会社でも、時には意見の食い違いから衝突することもあるでしょう。しかしその中で調和をみだしつつ、各々が自身の独自性を失わない。そう簡単にはいかあいものではありますが、そこに価値ある対話が生まれるのは確かです。調和を保つとは単なる同調ではありません。それは相手の立場を理解し、尊重する姿勢です。経営者といえどもチームの一員と捉えれば、全体の調和を乱さない配慮を保ちつつ、同時に自分自身の信念や創造性を失わない。この絶妙かつ微妙なバランスを保つことこそが、真のリーダーシップだと孔子は述べています。調和を重んじるあまり自己を殺してしまったり、逆に自己主張が強すぎて周囲とのあつれきを生んだりすることもありますが、その狭間で揺れ動くのが経営者かもしれません。だからこそ孔子は「和して同ぜず」を「君子」の性質としてあげ、理想の姿として私たちに示したのでしょう。日々の決断の中で調和と個性のバランスを取り続ける。その積み重ねがやがて企業文化となり、会社の個性となっていくのではないでしょうか。
商売をしていれば、厳しい環境や予期せぬ困難にしばしば直面します。しかし逆境の乗り越え方で、その後の成り行きは大きく変わります。いわゆる成功者と呼ばれる人に共通しているのは、決してネガティブな状態にとどまらないというマインドセット。彼らは自分のマインドをコントロールし、精神的な圧力を乗り越え、ポジティブな視点を持つ方法を知っています。そのひとつは、流れが悪い状況で勝負しないこと。どんなに頑張っても評価されない、認められないという状況はあります。そこでもがいても事態が好転するどころか、ますます泥沼になってしまうこともあります。非常に悔しい状況ではありますが、ここで大事なのは「今は流れが悪い」とはっきり認識することです。流れが悪い時に「勝ちたい」「評価されたい」と努力をしても、状況は容易に変わりません。そんなときは「今は勝負するときではない」と割り切り、周囲の評価を気にせず、日々の仕事に集中することが賢明です。あれこれ動きすぎないほうが、かえってよい流れをつくっていくこともあります。無駄な労力を消費せず、淡々と自分の能力を高め、次の来るべき時に備えることに力を注ぐ。逆境の中で静かに力を蓄えておけば、ここぞという好機ですぐに行動に移せるでしょう。そしてもうひとつ「気にしない」という鈍感力も逆境に強くなるマインドセットとして覚えておきましょう。困難な状況は永遠に続くわけではありません。どんなときもネガティブになり過ぎず、うまくいかないと感じたら「まぁいいか。こんなときもあるさ」と声に出して深呼吸でもしてみましょう。きっと大丈夫です。
今では当たり前のことにも、たどれば原点があります。例えば宅配の「時間指定」というサービス。もとは1985年にヤマト運輸が始めた「在宅時配達制度」が原点でした。配達先が留守の場合は不在連絡票を入れ、夜は20時までに配達し、不在の場合は翌日の午前中に再配達するなどのルールを決めて、徹底的に顧客の立場に立つことでサービスレベルを向上させたそうです。それから40年。「置き配(おきはい)」の登場で、物流業界の常識が変わろうとしています。お客さまがあらかじめ指定した場所に荷物を置いていく非対面の置き配サービスは人から人への対面商売を大事にしてきた日本人にとって、機械的で盗難の心配もあり、そもそもサービスレベルが低いとみられていました。ところが、サービスの一環として「置き配」を指定できるようにしたところ、配達方法を自分で選択できることが価値になり「むしろ置き配はサービスレベルが高い」という認識に変わってきたのです。常識も情報もソフトウェアも、あらゆるものが日進月歩でアップデートされていきます。そんな中、いちばんアップデートしておきたいのは「モノの見方や考え方」といった感覚ではないかと思います今、世の中で何が起こっているのか。それを自分はどう捉え、どう行動するのか。これは商売に直結する重要な感覚です。最近、何かとケチをつけたくなるとしたら、自分の感覚が「こだわり」という頑固さでさびついているのかもしれません。それに気づくことがアップデートの第一歩。つまり自分自身のアップデートこそが今後の商売に大きな影響を与えていくのでしょう。
「あと1時間あれば・・・」と思うことはありませんか。これは、ある大学での話です。世界的なベストセラー『7つの習慣』を取り上げた講義の中で、教授が生徒に聞いたそうです。「1日が25時間になったら、あなたは増えた1時間を何に使いますか?」。この質問は『7つの習慣で』提唱している「時間管理のマトリックス」という時間の使い方を意図したものでした。多くの人は日常の大半を、期限のあることや差し迫った問題など「緊急かつ重要」なことに使っているが、人生を豊かにしたければ「緊急ではないけれど重要」なことに取り組んでいくとよいという提案です。「緊急ではないけど重要」とは、心身のリラックス・新しいことへのチャレンジ・運動・家族との時間など自分を成長させる学びやワクワクする喜びなどのことであり、その最たるものは「自分が本来やりたかったことです。やったほうがいいと思っているけれど、つい後回しにしていること。そのうちやろうと思っているけれど、なんとなく先送りにしていること。商売でも思い当たる節はありませんか。とはいえ、いくらワクワクする時間の使い方を想像しても、実際に1日が25時間になるわけでもありません。だからこそ、この架空の1時間を24時間の中で意識的に作り出せたら、商売も人生もより充実するでしょう。「意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人生が変わる」といわれます。時間を増やせば解決すると思っているうちは、いつまで経っても「あと1時間あれば・・・」のまま。時間の使い方で商売も人生も激変する可能性があるのです。
「兆」を含んだ漢字の「挑」と「逃」がインターネットで話題になっているようです。「兆」を前にしたとき「挑む」か「逃げる」か。ダジャレのような言葉遊びですが、これを読んだときパウロ・コエーリョの『アルケミスト 夢を旅した少年』という小説を思い出しました。羊飼いの少年が「前兆」に従って自分の夢を追いかけていく冒険を描いた世界的なベストセラーです。著者のパウロ・コエーリョは「未来の前兆は、今にある」と言っています。つまり未来に起こることは必ず今に兆しがあり、今に集中することで私たちは、未来の変化に対応できるようになるというのです。私たちは未来に不安を覚えたり恐れたりしがちですが、未来は「今」の延長線上にしかありません。言い換えれば、今の決断や行動が自分の未来を作っているわけです。「兆」を前にしたとき「挑む」か「逃げる」か夢があれば挑み続けようという考え方は正論ですが「挑む」は少し重い気がするので「挑む」を「行動」に変えて考えてみましょう。成し遂げたいことがあれば、小さなことでもいいからとにかく行動する。後回しにしたり失敗を恐れて何もしなかったりすると、貴重な「今」を失ってしまう。それは自分の未来を無駄にしているのと同じこと。だから自分が良いと思ったら、とにかく何でもやってみる。人生がうまくいっている人は、体験や出会いがチャンスを運んでくることを知っているので行動を惜しまないのでしょう。何が起こっても不思議ではない世の中です。今に集中して、兆しを見逃さず、次の行動を起こす。そこには未来へのヒントやチャンスがきっとあるはずです。
時間に対する考え方や習慣と年収の関係を調べた調査結果があります。年収400万円台の人たちと1500万円以上の人たちに「人生の目的や目標を常に意識している」「仕事の目的や意味を常に考えている」「やりたいことリストを作っている」などの質問をしたところどの設問に対しても「○」と答えた率が高かったのは年収1500万円以上の人たちでした。つまり年収の差を生む要因のひとつは「時間」に対する考え方で「時間」の意識が高い人ほど、成績の確立が上がるのかもしれません。際限なく増やしたり貯めたりできて、しかも貸し借りまでできるお金に対して、増やすことも貯めることも貸し借りもできず、一度失うと二度と取り戻せない時間のほうがはるかに大切な資源だというのは、商売をしている人なら常々感じていることでしょう。しかし「多くの経営者は、その時間の大半を”昨日”の諸問題に費やしている」(ピーター・ドラッカー)これが現実かもしれません。西洋のことわざは「時は”金”なり」ですが、商売上手で知られる華僑の人たちは「時は”命”なり」というそうです。これは相手の時間に対しても同じでしょう。
例えば商談のために一時間作ってもらうのであれば、商談相手の命の中の1時間分を分けてもらっていると考えるのです。商談に15分遅れたら相手の命を15分間ムダにしたことになります。何の準備もなしに商談をしたら、相手の命はもちろん自分の命も無駄遣いです。改めて時間の重要性に向けてみたいですね。濃密で意義のある時間を過ごせるかどうかは、商売の成功と共に豊かな人生のためのテーマではないでしょうか。
人生のたとえ話は色々ありますが、コカ・コーラの元CEOであるブライアン・ダイソンは「人生は5つのボールでする〝お手玉”のようなもの」と言っています。5つのボールとは「仕事」「家庭」「健康」「友情」そして「自分の心」です。
さらに仕事はゴムのボール。たとえ落としたとしても、また戻ってくる。けれど、あとの4っはガラスのボール。仕事に気を取られて落としたなら、もろく壊れてしまう。この言葉は、人生におけるバランスの重要性と優先順位について、特に仕事との関係をどう考えるかの参考になります。仕事と他のボールとのバランスを取ることで、人生がより豊かになれば、仕事はさらにうまくいくようになるでしょう。肝心なのはバランスを取る方法です。ひとつは時間の使い方。仕事とプライベートで時間を明確に分け、仕事に集中するのと同じようにプライベートの楽しみにも集中する。特に、自分の心のケアに時間を割くことでストレスの解消になります。そのため心のバランスを取ることが、これからますます大事になる気がします。もうひとつは自分の価値観を見直すこと。自分にとって本当に大切なものは何かを改めて考えてみるのは、商売の重要性を考えることにもつながります。商売の目的は人それぞれ。生活のため、自己実現のため、自己成長のため、社会貢献のため、生きることそのもの、なんでもありですが、どれも仕事だけでは実現できません。仕事はゴムのボールでも、他の4つはもろく壊れやすいガラスのボール。商売で成功するには、人生の優先順位を見失わないようにしたいものですね。
イギリスのことわざに「馬を水辺に連れて行けても水を飲ませることはできない」があります。他人に対してチャンスを与えることはできても、それを実行するかどうかは本人のやる気次第という意味です。しかしやる気を高めることは、不可能ではありません。例えば、社員にかける言葉を変えるだけで驚くほど効果が上がることもあります。その言葉とは「なら」と「しか」。この仕事は○○さん「なら」できる。この仕事は○○さん「しか」できない。この2つの言葉は相手に信頼感や期待感を与えます。言われた人は「自分の能力や責任を認められた」と感じて、やりがいや自信を持ちます。また自分だけができる仕事だと思えば、他人に負けたくないという競争心も芽生えます。これらの感情は、やる気を高める強力なモチベーターとなるでしょう。社員に対して「なら」と「しか」を徹底して使うようにした結果、みるみる業績が回復したという嘘のような本当の話があります。ほかにも「△△といえば○○さん」も人を動かす強力な言葉です。これは相手の専門性や独自性を認めたことになり、言われた人は「自分の特徴や強みをいかせる」と感じて、仕事に情熱や創造性を持つことでしょう。このように言葉を変えるだけで人をやる気にさせることができるのです。お金も時間もかかりません。ただし相手をよく観察する必要があります。社員の良い所をノートに記している経営者を知っていますが、それには1人につき20個以上の長所や強み、特異なことが書かれていました。彼の会社は業績も人材もトップクラス。人をやる気にさせる名人というわけですね。
商売において大事な資質とはなんでしょうか。答えは十人十色だと思いますが「新・経営の神様」の異名を取る稲盛和夫さんは、苦難続きだった実体験をもとに「何事も誠実であれば一目置かれる」というメッセージを若い世代に残しました。社会貢献の先駆者でもある稲盛さんの人生が、誠実さと利他主義の二本柱に支えられていたことはご存知の方も多いでしょう。「人のため世のためを思い仕事をすること」が経営者の原点だと、繰り返し語っていました。また日本の将来についても思慮深い洞察を持っていました。日本伝統の芸事が持つ「礼」の精神を尊び、経済力よりも品性や礼儀を重んじ、周囲の国々から尊敬される国になることを望んでいました。誠実さ、利他心、品性、礼儀。どれも利益に直結したものではありません。誠実で利他心にあふれ、品性と礼儀が備わっていても、自社の商品やサービスでお金を生み出す力がなければ、ただの良い人になってしまうかもしれません。けれど今はお金を生み出す力が乏しくても人柄の良い人は周囲から愛されて応援されるでしょう。逆に、お金を稼ぐ力はあっても性格の悪い人の行く末は、皆さんが想像するとおりです。もちろん何事においてもバランスは大事です。しかし5年後、10年後、20年後にどうなっていたいのか、そこを見て商売をしている人は、目先の損得に一喜一憂することより大事なものがあることを、よくお分かりだと思います。精神性が上がると、今までと同じ出来事でも見え方や捉え方が変わってくるものです。自己成長の目安にしたいものですね。
「お金は人間の性格を映し出す鏡だ」と言ったのは「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一です。この言葉が示唆するのは「お金は人間の本質を反映する」ということでしょう。決してお金のある・なしで良い人になったり悪い人になったりするわけではありません。お金はただの道具であり、それをどう使うかは人間の性格や価値観によって決まるものです。商売がうまくいってる人には、お金と上手に付き合っているという共通点があるように思います。お金に対する価値観、つまりお金に対する感情や思い込み、または信念は人によって違います。例えば「お金は悪だ」と思っている人もいれば「お金は喜びだ」と思っている人もいるでしょう。「お金は自分に流れてくる」と信じている人もいれば「お金は自分から離れていく」と恐れている人もいるでしょう。こうした話にピンとこない人もいると思いますが、思考は現実化するといわれます。お金に対する価値観が商売の成果に影響しているとしても、なにも不思議ではありません。今一度、お金に対する自分の価値観を改めて考えてみましょう。お金を楽しく使ったり貯めたり投資したりできる人は、お金とポジティブに向き合っているといえます。お金を使うことに罪悪感があったり苦手意識があったり、お金を稼いでいる人に批判的になりがちな人は、お金との向き合い方がネガティブなのかもしれません。お金が人間の性格を映し出す鏡だとしたら、自分の性格や価値観を見直すことで、お金に対してポジティブな考え方や姿勢を持つことができそうです。キーワードはおそらく「感謝」ではないかと思います。
ある経営者が、リーダーの役割として常に自分に言い聞かせていることのひとつに「面倒だと思ったら“ハイ”と言う」があるそうです。何百人という社員を抱えた社長が、面倒な事柄を前に「ハイ」と素直に返事をしている姿を想像しながら、その理由を聞いてみたところ、思わず「師」と仰ぎたくなるような話を聞くことができました。「肩書」とは「役割」だと思っている。リーダーの役割は「何をしたいか」ではなく「なにをすべきか」を考えること。「何をすべきか」を最優先にするためには、面倒だと思うことも必要であれば「ハイ」と言って受け入れる。私利私欲を捨て、仕事にも人にも好き嫌いを持ち込まない、とのことでした。それでも仕事で問題が起きたときには「気は長く、心は丸く、腹を立てず、人は大きく、己は小さく」の言葉を心の中でつぶやくそうです。すると、相手に対する不満やいら立ちが消え去って「今すべきこと」を考えられるようになるのだとか。「師」と呼べる人物に出会えた人はとても幸運だと思います。今どきは「ロールモデル」という言い方もしますが、迷ったとき、行き詰まったときに「尊敬するあの人ならどうするだろう?」と考えて行動するのは自己成長のきっかけであり、人間性を磨く機会にもなります。余談ですが、ChatGPTに「世界中で最も好まれている座右の銘」を尋ねたところ「Carpe Diem(カルぺ・ディエム)」と返ってきました。これはラテン語で「今を生きよ」という意味合いの言葉であり、人生の短さを感じつつ、今を大切にすることを示唆するものだそうです。「心に師を持つ」とは、今を生きることに通じるように思います。
昭和という時代は、松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫といった名経営者が活躍した一方、もう昭和の商売の常識はなかなか通用しないともいわれます。明暗をわけるのは時代ではなく、個々の人間性であるのは言うまでもありません。「ボス」と「リーダー」の違いを端的に言語化した、イギリスの高級百貨店チエーン「セルフリッジズ」の創業者ハリー・ゴードン・セルフリッジの言葉を引用してみましょう。ボスは「私」と言うが、リーダーは「私たち」と言う。ボスは失敗の責任を追及するが、リーダーは失敗の後始末をする(失敗から学ばせる)。ボスはやり方を知っているが、リーダーはやり方を教える(人を育てる)。ボスは恐怖をあおるが、リーダーは熱意を持たせる。ボスは時間どうりに来いと言うが、リーダーは自ら時間前にやってくる。ボスは仕事を苦役に変えるが、リーダーは仕事をゲームに変える。ボスは間違いを避難するが、リーダーは間違いを改善する。ボスは権威に頼るが、リーダーは志をより所にする。ボスは「やれ」と命令するが、リーダーは「やろう」と言う(導く)。言われてみれば納得のことばかり。襟を正すことはあっても、そこに新しい発見はありません。しかしこれらの言葉が、今から100年前に言われたものだとしたら、身に染み方が少し変わってくる気がします。100年前から言われていることが今の時代でも通用して、現代人にも響くということは、人間に進歩がないのか、それとも普遍的な教示なのか。本質は常にシンプルで、シンプルがゆえに忘れがちです。果たして自分はボスかリーダーか。改めて問いかけてみたいものです。
日本中が大いに沸いたwBc(ワールド・ベースボール・クラシック)の名場面をYouTubeなどで見返して自分を奮い立たせている、という話をよく聞きます。確かにあの大舞台でもひるまないスーパー選手たちの圧巻のプレーは、何度見ても胸が熱くなります。数ある名場面の中でも特に印象的だったのは、誰もが不意をつかれた大谷選手のセーフティバントです。見せ場を作る十分な実力を持った選手があの決断をしたのは、自分の活躍よりチームの勝利、さらにwBcでの優勝という「目的」がはっきりしていたからだろうと想像します。「目的と手段を間違えるな」とよくいわれます。実際、気が付けば手段が目的に入れ替わっていたということはよくおこります。お客さまに喜んでもらおうと新商品を考えていたら、いつの間にか商品開発自体に熱が入りすぎて「お客さまのニーズそっちのけで自分たちが作りたいものを作っていた」なんてことになったりするわけです。いわゆる「こだわり」は大事なことですが「こだわりに」こだわりすぎると、視野が狭くなります。目的が明確であれば手段は多種多様。ゴールにたどり着くための道はひとつではなく、目的地さえ見失わなければ、どの道を、どう行っても間違いではありません。マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは『断絶の時代』で「組織は、自らのために存在するのではない。組織は手段である。組織の目的は、人と社会に対する貢献である。あらゆる組織が、自らの目的とするものを明確にするほど力を持つ」と述べています。「組織」を「商売」に替えてみると、商売の本質が見えてくる気がします。
仕事で大失敗をしました。そのときあなたは、いつまでもくよくよ悩むこともできます。パッと気持ちを切り替えて失敗から学ぶこともできます。何から何までうまくいかず、八方ふさがりになってしまいました。そのときあなたは、全てを投げ出して現実逃避することもできます。誰にも相談せずに1人で悩みを抱え込み、ますます状況を悪化させることもできます。または冷静に状況を分析して、人の知恵を借り、この状況を立て直していくように腹をくくることもできます。失敗や影響されることはあっても、それ自体が人生を決めるわけではありません。人生を決めるのは、目の前の出来事に対する自分の考えや行動なのです。これは「選択」といってもいいでしょう。辛いから簡単にあきらめてもいいし、辛くても頑張って続けてもいい。その出来事に対してあなたは、どんな選択もできます。どんな態度で望んでもあなたの自由です。ただ忘れてはならないのは、自分の人生を決めているのは「自分の選択」だということです。商売をやっていれば毎日、色々なことが起こりますが、目の前の出来事に一喜一憂しないことが大事だろうと思います。出来事はあなたの感情を揺さぶりますが、その出来事自体があなたの人生を決めるわけではないのです。その状況をどう捉えて、どう考えて、どう行動するか。それによって商売の行方や人生が決まります。感情で選択すれば感情的な結果になり、冷静な対応を選択すれば冷静な結果になる。どうやら自分をよく理解しているひとは、出来事の種類に関係なく冷静な選択ができるようです。
「二進も三進も」と書いて「にっちもさっちも」と読みます。語源はそろばん用語で、二進(にしん)三進(さんしん)の音が変化して「にっち」「さっち」になったようです。二進とは2÷2、三進とは3÷3のことで、どちらもわりきれる計算です。そこから転じて、2でも3でも割り切れないことを「二進も三進もいかない」というようになり、計算が合わないことを意味するようになったそうです。商売をしていれば二進も三進もいかない場面に出くわすことがあります。どう頑張っても行き詰まって身動きがとれない、いわゆる逆境ですが、逆境は人間が試される場面でもありますね。思うようにならないときは身をかがめて力を蓄え、次に跳ぶ準備をしておく人。事を成すは逆境のときと捉え、ピンチをチャンスに変えるべく行動する人。どれが正解ということはありませんが、ひとつだけダメなパターンがあるとしたら、それは「何もしないこと」でしょう。「今は動かない」と決めて積極的に何もしない状態と、自分では何も選ばず何も決めず、ただ何もしない状態は、たとえはたから同じに見えても、実際はまったく別物です。特に世の中が目まぐるしく変化している今のような時代には、何もしないことが一番のリスクになるといわれます。では動けないときはどうするか。その方法のひとつはリセットです。そろばんでは、次の計算に移るとき、先に置いたたまを全部払ってゼロにして、新しい計算ができる状態にすることを「ご破算(ごはさん)」といいます。二進も三進もいかないときは、今までの常識や経験をご破算して前に進む。そんな発想の転換が必要かもしれません。
今から2年前、トヨタ自動車の豊田章男社長は「100年に一度の大変革の時代を生き抜くために」という社長メッセージを出しました。「私は、トヨタを‟自動車をつくる会社”から‟モビリティカンパニー”にモデルチェンジすることを決断しました」から始まるメッセージの中で、約100年前の米国に1500万頭いたとされる馬が、今では1500万台の自動車に置き変わった現実を踏まえ「今はその時と同じか、それ以上のパラダイスチェンジを迎えているのではないか」と問いかけています。過去の苦難を生き抜いてきた企業にはいくつかの共通点がありますが、そのひとつは「時代の変化への対応力」ではないかと思います。フィルム製造から化粧品、医薬品へと分野を広げ、近年は医療用機器の製造受託にも注力している2兆円企業といえば富士フイルム。ゲーム機やゲームソフトで世界的に有名な任天堂の原点は花札。国内外で約2万店舗を展開するローソンは、元をたどれば米国オハイオ州の牛乳屋でした。時代を生き抜いてきた企業は、その時々で業種業態を変容させながら環境に適応する工夫をしてきたのでしょう。ところで、こうした良い例をいくら聞いても、人づてやネットの情報では実感が乏しく、自分事になりにくいものです。結果、頭で分かっていても行動につながりません。そこであなたの周りに長く続いている商売があれば、是非直接出向いて、ご本人から話を聞いてみてはいかがでしょうか。実際にやっている人が持っている「一次情報」にこそ、時代を生き抜く知識や知恵が詰まっていると思います。
東京税理士会所属
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