「商売のヒント」

経営に関するヒントや考え方など毎月掲載しています。

【稼ぐ力、生かす力】《令和6年4月掲載》

人には色々な能力があります。「お金を稼ぐ力」もひとつの能力でしょう。お金を稼ぐ力とは、単なる儲け方のノウハウなどではありません。例えば、付加価値を生み出す力。さらにはお金を稼ごうとする意欲や貪欲な姿勢も「稼ぐ力」ではないでしょうか。商売をするうえでもお金を稼ぐ力はとても重要です。ところが世の中には、お金を稼ぐ力はあるのに商売がうまくいっていない人たちもいます。つまり大成功している人たちは「お金を稼ぐ力」のほかにも商売における大事な能力を持っているのでしょう。それは「お金を生かす力ではないかと思います。お金を稼ぐのが上手な人は、お金の生かし方も上手かと思いきや「稼ぐ力」と「生かす力」は別物で、稼いだお金を生かせない人は少なくありません。ではお金を生かすとはどうゆうことでしょう「お金を生かす=お金を増やす」と思っている人は、稼いだお金を投資などで運用して増やそうとするかもしれません。それもひとつの生かし方ではありますが、商売を続けていくには守りの姿勢が大事なときもあります。「増やす」より「減らさない」で維持しておく。次の展開のために稼いだお金をしっかり蓄えておくことも、お金を生かす大事な一面だと思います。現に大きく稼いでいないのに商売が順調に続いている人たちは、大勢います。稼ぐ力と生かす力。どちらも商売に欠かせない大事な能力ですが、稼ぐ力があると、うっかり調子に乗ってしまうのが人間のかわいいところです。億単位のお金を稼いでも、その稼いだお金で何をするかが肝心なのは言うまでもありません。

【未来の前兆は今にある】《令和6年3月号掲載》

「兆」を含んだ漢字の「挑」と「逃」がインターネットで話題になっているようです。「兆」を前にしたとき「挑む」か「逃げる」か。ダジャレのような言葉遊びですが、これを読んだときパウロ・コエーリョの『アルケミスト 夢を旅した少年』という小説を思い出しました。羊飼いの少年が「前兆」に従って自分の夢を追いかけていく冒険を描いた世界的なベストセラーです。著者のパウロ・コエーリョは「未来の前兆は、今にある」と言っています。つまり未来に起こることは必ず今に兆しがあり、今に集中することで私たちは、未来の変化に対応できるようになるというのです。私たちは未来に不安を覚えたり恐れたりしがちですが、未来は「今」の延長線上にしかありません。言い換えれば、今の決断や行動が自分の未来を作っているわけです。「兆」を前にしたとき「挑む」か「逃げる」か夢があれば挑み続けようという考え方は正論ですが「挑む」は少し重い気がするので「挑む」を「行動」に変えて考えてみましょう。成し遂げたいことがあれば、小さなことでもいいからとにかく行動する。後回しにしたり失敗を恐れて何もしなかったりすると、貴重な「今」を失ってしまう。それは自分の未来を無駄にしているのと同じこと。だから自分が良いと思ったら、とにかく何でもやってみる。人生がうまくいっている人は、体験や出会いがチャンスを運んでくることを知っているので行動を惜しまないのでしょう。何が起こっても不思議ではない世の中です。今に集中して、兆しを見逃さず、次の行動を起こす。そこには未来へのヒントやチャンスがきっとあるはずです。

【時間の重要性を改めて考えよう】《令和6年2月号掲載》

時間に対する考え方や習慣と年収の関係を調べた調査結果があります。年収400万円台の人たちと1500万円以上の人たちに「人生の目的や目標を常に意識している」「仕事の目的や意味を常に考えている」「やりたいことリストを作っている」などの質問をしたところどの設問に対しても「○」と答えた率が高かったのは年収1500万円以上の人たちでした。つまり年収の差を生む要因のひとつは「時間」に対する考え方で「時間」の意識が高い人ほど、成績の確立が上がるのかもしれません。際限なく増やしたり貯めたりできて、しかも貸し借りまでできるお金に対して、増やすことも貯めることも貸し借りもできず、一度失うと二度と取り戻せない時間のほうがはるかに大切な資源だというのは、商売をしている人なら常々感じていることでしょう。しかし「多くの経営者は、その時間の大半を”昨日”の諸問題に費やしている」(ピーター・ドラッカー)これが現実かもしれません。西洋のことわざは「時は”金”なり」ですが、商売上手で知られる華僑の人たちは「時は”命”なり」というそうです。これは相手の時間に対しても同じでしょう。

例えば商談のために一時間作ってもらうのであれば、商談相手の命の中の1時間分を分けてもらっていると考えるのです。商談に15分遅れたら相手の命を15分間ムダにしたことになります。何の準備もなしに商談をしたら、相手の命はもちろん自分の命も無駄遣いです。改めて時間の重要性に向けてみたいですね。濃密で意義のある時間を過ごせるかどうかは、商売の成功と共に豊かな人生のためのテーマではないでしょうか。

【人生がお手玉なら】《令和6年1月号掲載》

人生のたとえ話は色々ありますが、コカ・コーラの元CEOであるブライアン・ダイソンは「人生は5つのボールでする〝お手玉”のようなもの」と言っています。5つのボールとは「仕事」「家庭」「健康」「友情」そして「自分の心」です。

さらに仕事はゴムのボール。たとえ落としたとしても、また戻ってくる。けれど、あとの4っはガラスのボール。仕事に気を取られて落としたなら、もろく壊れてしまう。この言葉は、人生におけるバランスの重要性と優先順位について、特に仕事との関係をどう考えるかの参考になります。仕事と他のボールとのバランスを取ることで、人生がより豊かになれば、仕事はさらにうまくいくようになるでしょう。肝心なのはバランスを取る方法です。ひとつは時間の使い方。仕事とプライベートで時間を明確に分け、仕事に集中するのと同じようにプライベートの楽しみにも集中する。特に、自分の心のケアに時間を割くことでストレスの解消になります。そのため心のバランスを取ることが、これからますます大事になる気がします。もうひとつは自分の価値観を見直すこと。自分にとって本当に大切なものは何かを改めて考えてみるのは、商売の重要性を考えることにもつながります。商売の目的は人それぞれ。生活のため、自己実現のため、自己成長のため、社会貢献のため、生きることそのもの、なんでもありですが、どれも仕事だけでは実現できません。仕事はゴムのボールでも、他の4つはもろく壊れやすいガラスのボール。商売で成功するには、人生の優先順位を見失わないようにしたいものですね。

【奈良と鹿で商売繫盛⁉】《令和5年12月号掲載》

イギリスのことわざに「馬を水辺に連れて行けても水を飲ませることはできない」があります。他人に対してチャンスを与えることはできても、それを実行するかどうかは本人のやる気次第という意味です。しかしやる気を高めることは、不可能ではありません。例えば、社員にかける言葉を変えるだけで驚くほど効果が上がることもあります。その言葉とは「なら」と「しか」。この仕事は○○さん「なら」できる。この仕事は○○さん「しか」できない。この2つの言葉は相手に信頼感や期待感を与えます。言われた人は「自分の能力や責任を認められた」と感じて、やりがいや自信を持ちます。また自分だけができる仕事だと思えば、他人に負けたくないという競争心も芽生えます。これらの感情は、やる気を高める強力なモチベーターとなるでしょう。社員に対して「なら」と「しか」を徹底して使うようにした結果、みるみる業績が回復したという嘘のような本当の話があります。ほかにも「△△といえば○○さん」も人を動かす強力な言葉です。これは相手の専門性や独自性を認めたことになり、言われた人は「自分の特徴や強みをいかせる」と感じて、仕事に情熱や創造性を持つことでしょう。このように言葉を変えるだけで人をやる気にさせることができるのです。お金も時間もかかりません。ただし相手をよく観察する必要があります。社員の良い所をノートに記している経営者を知っていますが、それには1人につき20個以上の長所や強み、特異なことが書かれていました。彼の会社は業績も人材もトップクラス。人をやる気にさせる名人というわけですね。

【20年後に後悔しない商売】《令和5年11月号掲載》

商売において大事な資質とはなんでしょうか。答えは十人十色だと思いますが「新・経営の神様」の異名を取る稲盛和夫さんは、苦難続きだった実体験をもとに「何事も誠実であれば一目置かれる」というメッセージを若い世代に残しました。社会貢献の先駆者でもある稲盛さんの人生が、誠実さと利他主義の二本柱に支えられていたことはご存知の方も多いでしょう。「人のため世のためを思い仕事をすること」が経営者の原点だと、繰り返し語っていました。また日本の将来についても思慮深い洞察を持っていました。日本伝統の芸事が持つ「礼」の精神を尊び、経済力よりも品性や礼儀を重んじ、周囲の国々から尊敬される国になることを望んでいました。誠実さ、利他心、品性、礼儀。どれも利益に直結したものではありません。誠実で利他心にあふれ、品性と礼儀が備わっていても、自社の商品やサービスでお金を生み出す力がなければ、ただの良い人になってしまうかもしれません。けれど今はお金を生み出す力が乏しくても人柄の良い人は周囲から愛されて応援されるでしょう。逆に、お金を稼ぐ力はあっても性格の悪い人の行く末は、皆さんが想像するとおりです。もちろん何事においてもバランスは大事です。しかし5年後、10年後、20年後にどうなっていたいのか、そこを見て商売をしている人は、目先の損得に一喜一憂することより大事なものがあることを、よくお分かりだと思います。精神性が上がると、今までと同じ出来事でも見え方や捉え方が変わってくるものです。自己成長の目安にしたいものですね。

【お金は良いもの?悪いもの?】《令和5年10月号掲載》

「お金は人間の性格を映し出す鏡だ」と言ったのは「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一です。この言葉が示唆するのは「お金は人間の本質を反映する」ということでしょう。決してお金のある・なしで良い人になったり悪い人になったりするわけではありません。お金はただの道具であり、それをどう使うかは人間の性格や価値観によって決まるものです。商売がうまくいってる人には、お金と上手に付き合っているという共通点があるように思います。お金に対する価値観、つまりお金に対する感情や思い込み、または信念は人によって違います。例えば「お金は悪だ」と思っている人もいれば「お金は喜びだ」と思っている人もいるでしょう。「お金は自分に流れてくる」と信じている人もいれば「お金は自分から離れていく」と恐れている人もいるでしょう。こうした話にピンとこない人もいると思いますが、思考は現実化するといわれます。お金に対する価値観が商売の成果に影響しているとしても、なにも不思議ではありません。今一度、お金に対する自分の価値観を改めて考えてみましょう。お金を楽しく使ったり貯めたり投資したりできる人は、お金とポジティブに向き合っているといえます。お金を使うことに罪悪感があったり苦手意識があったり、お金を稼いでいる人に批判的になりがちな人は、お金との向き合い方がネガティブなのかもしれません。お金が人間の性格を映し出す鏡だとしたら、自分の性格や価値観を見直すことで、お金に対してポジティブな考え方や姿勢を持つことができそうです。キーワードはおそらく「感謝」ではないかと思います。

【心に師を持つ】《令和5年9月号掲載》

ある経営者が、リーダーの役割として常に自分に言い聞かせていることのひとつに「面倒だと思ったら“ハイ”と言う」があるそうです。何百人という社員を抱えた社長が、面倒な事柄を前に「ハイ」と素直に返事をしている姿を想像しながら、その理由を聞いてみたところ、思わず「師」と仰ぎたくなるような話を聞くことができました。「肩書」とは「役割」だと思っている。リーダーの役割は「何をしたいか」ではなく「なにをすべきか」を考えること。「何をすべきか」を最優先にするためには、面倒だと思うことも必要であれば「ハイ」と言って受け入れる。私利私欲を捨て、仕事にも人にも好き嫌いを持ち込まない、とのことでした。それでも仕事で問題が起きたときには「気は長く、心は丸く、腹を立てず、人は大きく、己は小さく」の言葉を心の中でつぶやくそうです。すると、相手に対する不満やいら立ちが消え去って「今すべきこと」を考えられるようになるのだとか。「師」と呼べる人物に出会えた人はとても幸運だと思います。今どきは「ロールモデル」という言い方もしますが、迷ったとき、行き詰まったときに「尊敬するあの人ならどうするだろう?」と考えて行動するのは自己成長のきっかけであり、人間性を磨く機会にもなります。余談ですが、ChatGPTに「世界中で最も好まれている座右の銘」を尋ねたところ「Carpe Diem(カルぺ・ディエム)」と返ってきました。これはラテン語で「今を生きよ」という意味合いの言葉であり、人生の短さを感じつつ、今を大切にすることを示唆するものだそうです。「心に師を持つ」とは、今を生きることに通じるように思います。

【「私」か「私たちか】《令和5年8月号掲載》

昭和という時代は、松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫といった名経営者が活躍した一方、もう昭和の商売の常識はなかなか通用しないともいわれます。明暗をわけるのは時代ではなく、個々の人間性であるのは言うまでもありません。「ボス」と「リーダー」の違いを端的に言語化した、イギリスの高級百貨店チエーン「セルフリッジズ」の創業者ハリー・ゴードン・セルフリッジの言葉を引用してみましょう。ボスは「私」と言うが、リーダーは「私たち」と言う。ボスは失敗の責任を追及するが、リーダーは失敗の後始末をする(失敗から学ばせる)。ボスはやり方を知っているが、リーダーはやり方を教える(人を育てる)。ボスは恐怖をあおるが、リーダーは熱意を持たせる。ボスは時間どうりに来いと言うが、リーダーは自ら時間前にやってくる。ボスは仕事を苦役に変えるが、リーダーは仕事をゲームに変える。ボスは間違いを避難するが、リーダーは間違いを改善する。ボスは権威に頼るが、リーダーは志をより所にする。ボスは「やれ」と命令するが、リーダーは「やろう」と言う(導く)。言われてみれば納得のことばかり。襟を正すことはあっても、そこに新しい発見はありません。しかしこれらの言葉が、今から100年前に言われたものだとしたら、身に染み方が少し変わってくる気がします。100年前から言われていることが今の時代でも通用して、現代人にも響くということは、人間に進歩がないのか、それとも普遍的な教示なのか。本質は常にシンプルで、シンプルがゆえに忘れがちです。果たして自分はボスかリーダーか。改めて問いかけてみたいものです。

《令和5年7月号掲載》【解釈力を磨く】

朝、元気に「行ってきます。」と出かけた人が事故に巻き込まれ、その日の夕方には全身を包帯を巻かれた姿で病院のベットに寝ていた、という話を聞きました。その場にいた全員が「なんて不幸な出来事なんだ」「かわいそうに」と同情する中で、当事者の妻は「彼が生きていてくれて本当によかったです」と満面の笑みだったそうです。私はこのとき、とても大事なことを学びました。人を不幸にするのは「出来事ではない」その出来事をどう「解釈」するかで自分にとっての現実がまったく違ってくる、ということです。自分の身にトラブルが起きたとき、あなたはそのトラブルをどう解釈しているでしょうか。自分に非があれば謙虚な気持ちで反省し、迷惑をかけた相手には思いやりの心で接するかもしれません。また自分に非がなければ「相手が悪い」「タイミングや状況が悪かった」など原因となった要素を責めることもあるでしょう。けれど例えば石につまずいて転んだとして、果たしてそこに石があったからなのか。「こんな所に石があるのが悪いんだ」と解釈することもできますが「足元の石に気がつかなかったのは自分の不注意だ。転んだおかげで、次からは足元に気をつけようと思えてよかった。と解釈できたらどうでしょうか。そうすることにより今まで苦難だ、逆境だと嘆いていた出来事すべてが逆転して、結果「よかったじゃないか」となるのではないでしょうか。「すべての出来事は自分にも原因がある」と解釈して、現実を感謝の気持ちで受け止めてみる。これは一種の訓練です。繰り返し解釈力を磨くプロセスで、私たちは多くを学べるだろうと思います。

【商売は「目的」か「手段」か?】《令和5年6月号掲載》

日本中が大いに沸いたwBc(ワールド・ベースボール・クラシック)の名場面をYouTubeなどで見返して自分を奮い立たせている、という話をよく聞きます。確かにあの大舞台でもひるまないスーパー選手たちの圧巻のプレーは、何度見ても胸が熱くなります。数ある名場面の中でも特に印象的だったのは、誰もが不意をつかれた大谷選手のセーフティバントです。見せ場を作る十分な実力を持った選手があの決断をしたのは、自分の活躍よりチームの勝利、さらにwBcでの優勝という「目的」がはっきりしていたからだろうと想像します。「目的と手段を間違えるな」とよくいわれます。実際、気が付けば手段が目的に入れ替わっていたということはよくおこります。お客さまに喜んでもらおうと新商品を考えていたら、いつの間にか商品開発自体に熱が入りすぎて「お客さまのニーズそっちのけで自分たちが作りたいものを作っていた」なんてことになったりするわけです。いわゆる「こだわり」は大事なことですが「こだわりに」こだわりすぎると、視野が狭くなります。目的が明確であれば手段は多種多様。ゴールにたどり着くための道はひとつではなく、目的地さえ見失わなければ、どの道を、どう行っても間違いではありません。マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは『断絶の時代』で「組織は、自らのために存在するのではない。組織は手段である。組織の目的は、人と社会に対する貢献である。あらゆる組織が、自らの目的とするものを明確にするほど力を持つ」と述べています。「組織」を「商売」に替えてみると、商売の本質が見えてくる気がします。

【目の前の出来事は関係ない】《令和5年5月号掲載》

仕事で大失敗をしました。そのときあなたは、いつまでもくよくよ悩むこともできます。パッと気持ちを切り替えて失敗から学ぶこともできます。何から何までうまくいかず、八方ふさがりになってしまいました。そのときあなたは、全てを投げ出して現実逃避することもできます。誰にも相談せずに1人で悩みを抱え込み、ますます状況を悪化させることもできます。または冷静に状況を分析して、人の知恵を借り、この状況を立て直していくように腹をくくることもできます。失敗や影響されることはあっても、それ自体が人生を決めるわけではありません。人生を決めるのは、目の前の出来事に対する自分の考えや行動なのです。これは「選択」といってもいいでしょう。辛いから簡単にあきらめてもいいし、辛くても頑張って続けてもいい。その出来事に対してあなたは、どんな選択もできます。どんな態度で望んでもあなたの自由です。ただ忘れてはならないのは、自分の人生を決めているのは「自分の選択」だということです。商売をやっていれば毎日、色々なことが起こりますが、目の前の出来事に一喜一憂しないことが大事だろうと思います。出来事はあなたの感情を揺さぶりますが、その出来事自体があなたの人生を決めるわけではないのです。その状況をどう捉えて、どう考えて、どう行動するか。それによって商売の行方や人生が決まります。感情で選択すれば感情的な結果になり、冷静な対応を選択すれば冷静な結果になる。どうやら自分をよく理解しているひとは、出来事の種類に関係なく冷静な選択ができるようです。

【禅から学ぶ商売の心持ち】《令和5年4月号掲載》

姥捨て山(うばすてやま)の物語をご存知でしょうか。ある男が口減らしのために年老いた母を山に捨てに行きます。母を背負って山道を歩いていると、ときどき背中で枝を折る音がします。「さては母が、捨てられたあとに一人で山を降りるための目印を作っているな」。男はそう思いましたが、知らん顔でようやく山奥にたどりつき、母に別れを告げました。すると母は息子に言うのです。「山を登ってくるとき、お前が帰り道を間違えないように枝を折って目印をつけておいたよ。それを頼りに気をつけて里へ帰りなさい」。自分が捨てられようとしているのに、なおわが子のために道しるべを残そうとする親切心。自分のことは一切考えず、ただ相手を思いやる心。禅の世界ではこれを「老婆心」といいます。現代では「おせっかい」や「余計なお世話」と似た解釈をされがちですが、本来の「老婆心」は「利他心」に通じる心持ちなのでしょう。昔のお年寄りは、見送った人の背中にいつまでも手を合わせて感謝していました。困っているように見える人には「どうしましたか?」と自然に声をかけ、ついでだからと近所の草むしりもして、泣いている子の頭を優しくなでながら「いい子だ、いい子だ」と話を聞いてあげたものです。今のような混沌(こんとん)と複雑化していく世の中では、本来の老婆心が人間関係を豊かにして、仕事や生活の潤いになるように思います。親が子を思うように、また祖父母が孫を思うように心を尽くし、ただ相手を思いやり、仕事に当たる。そう簡単にできることではありませんが「人によかれ」の心で商売することは忘れないようにしたいものです。

【二進も三進もご破算で】《令和5年3月号掲載》

「二進も三進も」と書いて「にっちもさっちも」と読みます。語源はそろばん用語で、二進(にしん)三進(さんしん)の音が変化して「にっち」「さっち」になったようです。二進とは2÷2、三進とは3÷3のことで、どちらもわりきれる計算です。そこから転じて、2でも3でも割り切れないことを「二進も三進もいかない」というようになり、計算が合わないことを意味するようになったそうです。商売をしていれば二進も三進もいかない場面に出くわすことがあります。どう頑張っても行き詰まって身動きがとれない、いわゆる逆境ですが、逆境は人間が試される場面でもありますね。思うようにならないときは身をかがめて力を蓄え、次に跳ぶ準備をしておく人。事を成すは逆境のときと捉え、ピンチをチャンスに変えるべく行動する人。どれが正解ということはありませんが、ひとつだけダメなパターンがあるとしたら、それは「何もしないこと」でしょう。「今は動かない」と決めて積極的に何もしない状態と、自分では何も選ばず何も決めず、ただ何もしない状態は、たとえはたから同じに見えても、実際はまったく別物です。特に世の中が目まぐるしく変化している今のような時代には、何もしないことが一番のリスクになるといわれます。では動けないときはどうするか。その方法のひとつはリセットです。そろばんでは、次の計算に移るとき、先に置いたたまを全部払ってゼロにして、新しい計算ができる状態にすることを「ご破算(ごはさん)」といいます。二進も三進もいかないときは、今までの常識や経験をご破算して前に進む。そんな発想の転換が必要かもしれません。

【一次情報にこそ価値がある】《令和5年2月号掲載》

今から2年前、トヨタ自動車の豊田章男社長は「100年に一度の大変革の時代を生き抜くために」という社長メッセージを出しました。「私は、トヨタを‟自動車をつくる会社”から‟モビリティカンパニー”にモデルチェンジすることを決断しました」から始まるメッセージの中で、約100年前の米国に1500万頭いたとされる馬が、今では1500万台の自動車に置き変わった現実を踏まえ「今はその時と同じか、それ以上のパラダイスチェンジを迎えているのではないか」と問いかけています。過去の苦難を生き抜いてきた企業にはいくつかの共通点がありますが、そのひとつは「時代の変化への対応力」ではないかと思います。フィルム製造から化粧品、医薬品へと分野を広げ、近年は医療用機器の製造受託にも注力している2兆円企業といえば富士フイルム。ゲーム機やゲームソフトで世界的に有名な任天堂の原点は花札。国内外で約2万店舗を展開するローソンは、元をたどれば米国オハイオ州の牛乳屋でした。時代を生き抜いてきた企業は、その時々で業種業態を変容させながら環境に適応する工夫をしてきたのでしょう。ところで、こうした良い例をいくら聞いても、人づてやネットの情報では実感が乏しく、自分事になりにくいものです。結果、頭で分かっていても行動につながりません。そこであなたの周りに長く続いている商売があれば、是非直接出向いて、ご本人から話を聞いてみてはいかがでしょうか。実際にやっている人が持っている「一次情報」にこそ、時代を生き抜く知識や知恵が詰まっていると思います。

【桃を拾え】《令和5年1月号掲載》

ある有名な実業家が「一生懸命やれば何とかなると思っている人もいるけれど、成功の要因は運も大きく影響すると思う」とはなしていました。確かに経営者でもアスリートでも、ジャンルを問わず、「成功」と「運」はワンセットで語られることが多いように思います。「運の正体」には色々な言説がありますが、ホリエモンこと堀江貴文氏がおとぎ話の『桃太郎』をヒントにした持論はとてもユニークです。川上から大きな桃が流れてきても普通は気味が悪くて誰も拾わない。けれどおばあさんは桃を拾った。これは一種の異常行動である。しかも家に持ち帰り、そのあとの展開はご存じのとおり。ではおばあさんは何を拾ったのか。流れてきた桃は何だったのか。つまり桃は「チャンス」の象徴で、おばあさんはチャンスを拾った(つかんだ)というのがホリエモンの「桃太郎理論」です。おばあさんより川上で洗濯をしていた人もいたと思いますが、その人たちは桃を拾わなかった。「流れてきた大きな桃を拾う」という通常とは違う行動をしたおばあさんだけがチャンスをものにした、というホリエモンの解釈は「運」の本質を突いていると思いました。損得の感情よりも、ここ一番の大勝負や大胆な決断ができる人に運は味方するといわれます。運はやはり通常とは違う行動をする人がお好みなのかもしれません。新たな可能性を感じつつも、変化に伴うリスクに尻込みしたり、変化自体が面倒だったりして結局、チャンスを逃してしまうことがあります。今まで一生懸命やってきて、もし行き詰まりを感じているのなら、今年は通常とは違う独自の発想で開運を願いたいものです。

【ばら色の未来を望むなら】《令和4年12月掲載》

過去は決して変えられない。おそらくそう思っている方が多いでしょう。ところが「記憶」は変えられるとしたらどうでしょうか。「記憶を引き出す」という言い方をするせいか、私たちは記憶を固定的な「もの」のように考えがちです。しかし実のところ、記憶は非常にあいまいなものであり「もの」ではなく脳の一種の「状態」なのだとか。ですから、思い出すときの心理状態で記憶の中身が変わることもあります。例えば、盛大に夫婦げんかをした記憶。それを気分が良いときに思い出すと、あれほど頭にきた相手の言動がそれほど気にならず、むしろ「こちらも悪かった・・・」と反省もできる。ところがイライラしながら思い出すと「やっぱり頭にくる!」と怒りが再燃。このような経験はありませんか?夫婦げんかという「過去の出来事」はかわりませんが、嫌な記憶を良い気分で思い出すことによって「記憶の印象」をガラッと染め変えることができるのです。思い出すときの気分が記憶の印象を左右するのは、未来に対しても同じことです。将来を良い気分で思い描いておけば、この先、将来を思うたびに「良い感じ」がよみがえって、ますます将来像が良い感じになっていくでしょう。逆に暗い気持ちで将来を思い描けば、先のことを考えるたびに暗い気持ちもよみがえって、明るい見通しが立たなくなります。つまりばら色の未来を望むのであれば「今」をばら色の気分で過ごし、記憶を「ばら色」に染めておく、というわけです。実際の出来事はともかく、気分はばら色で商売する。単純なことですが、これからの日本を考えると、これはやってみる価値は大いにありそうです。

【経営の神様の共通点】《令和4年11年月掲載》

「平成の経営の神様」稲盛和夫さんが亡くなりました。そのため「昭和の経営の神様松下幸之助との共通点に言及した記事をよく目にします。最大の共通点は、経営に「哲学」を持ち込んだこと。この意見には深く納得しました。松下幸之助は「人間探求」と宇宙の法則」を説き続けました。稲盛さんの経営哲学は、あの有名な「京セラフィロソフィ」です。その基本は全社員の物心両面の幸福を追求」経営破綻したJALを再建するために乗り込んだときの「JALフィロソフィ」の冒頭にも、この言葉が書かれていました。これは稲盛さんが実践を通して得た人生哲学であり、根底には「人間として何が正しいか」という問いかけがありました。物事を判断するとき、常に「これは人間として正しいか」を自分に問いかけていたのです。経営者としてはもちろんですが、稲盛さんが唱える「六つの精進」などを読むと、人間力の高さにも圧倒されます。「誰にも負けない努力をする」「謙虚にしておごらず」「反省のある毎日を送る」「生きていることに感謝する」「善行、利他行を積む」「感性的な悩みをしない」。立派すぎて引け目を感じてしまうほどですが、最も見習いたいところは未来を信じる力です。稲盛さんは常に「私にはすばらしい人生がひらかれている」と思い続けてきたそうです。「非常に単純なことですが、自分の未来に希望をいだいて明るく積極的に行動していくことが、仕事や人生をより良くするための第一条件」だと語っていました。つい不平不満を言いたくなるご時世ですが、希望を持ってとにかく行動することは、今この瞬間からできそうです。

【迷ったら「変化」を選ぶ】《令和4年10月掲載》

帝国データバンクによれば、今年100周年を迎える日本企業は1065社。「100年企業」は約3万社(日経BPコンサルティング調査/2020年3月時点)にものぼるそうです。世界の「100年企業」が約8万社なので、日本は世界でもまれに見る長寿企業大国なのです。振り返ってみれば、100年前は第一次世界大戦後の不況が続き、関東大震災があり、また戦争があり、高度経済成長期を経験してオイルショックが2回あり、その後バブル経済やITバブルがはじけ、リーマンショック、阪神淡路大震災、東日本大震災、そしてコロナが世の中を大きく変えました。こんな苦難な時代を乗り越えてきた「100年企業」には、キューピー、ハウス食品、清水建設、竹中工務店、小学館、任天堂、グリコ、旭化成など誰もが知っている有名企業がずらりと並びます。

2011年版中小企業白書によると、創業5年以内に廃業する率は約2割。そんな状況の中、100年以上の歴史を重ね、今なお経済をリードしている企業には3つの共通点があるようです。「変化をいとわない」「社員を大事にする」「地域貢献」。中でも注目したいのが「変化をいとわないです。物事がある程度長く続くと、過去の成功体験やしがらみなどに縛られて大胆な選択ができなくなってきます。すると「ここまで続けてきたからやめるわけにはいかない」という気持ちが大きくなり、継続していくことが目的になってしまいがちです。しかし現状維持は衰退の第一歩。長く続けていくためには、今までとは違う選択をすることが継続への活路になることもあります。革新的なことをすると批判も受けますが、常識にとらわれずにチャレンジし続けた結果の「100年企業」なのでしょう。日本のコンビニの父、鈴木敏文さんは以前「人間は一方で何かにしがみつきながら、もう一方で新しいことに挑戦することはできません。自分では一歩踏み出したつもりでも、思うように前に進まない人は、無意識のうちに何かにしがみついているのかもしれません」と言っていました。自分は何かにしがみついていないだろうか。迷ったら変化を選ぶ大胆さと勇気を持ちたいものです。

【「真の花」を咲かせるとき】《令和2年6月掲載》

紫陽花(アジサイ)の季節になりました。あっという間に世界が変わり、新たな価値観に塗り替わっていく様子を目の当たりにしていると「七変化」と呼ばれる紫陽花の、花の色の移り変わりに今年は一層、目を奪われます。世の中が騒がしくても季節は巡り、今年も美しい花を咲かせてくれる自然のありがたみが身にしみる日々。花には癒し効果があるとされます。指先の心拍変動性と気分プロフィール検査というもので実験したところ、実際に花がストレスを緩和してリラックス効果を高めることが明らかになったそうです。能の大成者である世阿弥は、著書『風姿花伝(ふうしかでん)』で、観客に感動を与える力を「花」にたとえています。若い演者は美しい声と姿をもつが、それは「時分(じぶん)の花」に過ぎず、いずれ失われていく。しかし工夫を重ねて精進すれば、やがては能の奥義である「真(まこと)の花」が現れ、それは決して失われることはない――。

「時分の花」とは、若さによって現れる芸以前の一時的な面白さ。「真の花」とは、稽古と工夫を究めた本当の芸のうまさ。その間に咲くのが「工夫の花」です。「時分の花」に慢心して努力を怠ると、花はすぐに色あせます。人は人生の大半を「工夫の花」として過ごしていくのでしょう。「少年よ大志を抱け」で知られたクラーク博士の全文は「少年よ大志を抱け。金や私欲のためではなく、名声などと呼ばれる空しいものでもなく、人間として当然持つべきもののために大志を抱け」とされています。皆さんの心に宿る少年は、どんな大志を抱いているでしょうか。その大志は、咲く時期を待っている「真の花」と重なるように思います。「ピンチはチャンス」という聞き飽きた言葉が今、これほど心に響く理由を改めて考えてみるときかもしれません。ちなみに、紫陽花の代表的な花言葉は「移り気」でしたが、最近は「辛抱強い愛」「家族の結びつき」なども広がっているようです。辛抱強く助け合って、ピンチをチャンスに変えていきたいものですね。

【今、決断という経験を積むとき】《令和2年5月掲載》

460年前のちょうど今頃、日本の歴史を動かすドラマチックな合戦が起こりました。織田信長が、兵力差約10倍の今川軍を奇襲戦法で打ち破った桶狭間の戦いです。勝利の決め手は信長が見せた驚異の決断力でしょう。リーダーの最大の仕事は「決断」に尽きるといわれます。優れたリーダーほど決断が早いともいわれます。三英傑の信長、秀吉、家康は三者三様でも、決断力に長けている点は共通しています。経営者もしかり。経営は決断の連続です。商売をしていれば決断を迫られる場面が多々あります。決断ひとつが会社の将来を左右しかねませんし、タイミングを逃すと決断の意味がなくなってしまうこともあります。新型コロナウイルスの影響で、前例のない選択決断を求められている経営者が少なくないようです。熊本市長がツイートした「コロナのバカ――っ!(泣)」も他人事ではありません。今までは過去の事例を参考に、その延長線上で考えることもできましたが、前例通りにやっても間に合わない事態が起こることもあります。そんな状況で思うのは「日頃から何を大事にしているか」が問われているのではないかということです。商売に限らずとも、何かを決めるときは自分なりの大事にしているものがあるでしょう。カッコよく言えば哲学です。素早く決断できる人は、哲学を持ってゆるぎない気持ちで物事に取り組んでいるのだろうと想像します。決断には正解がありません。これでいいのか悪いのか、いくら考えても分かりません。であればシンプルに、自分の哲学を優先して、最速で決断するのはトップの役割といえそうです。

商売で、人生で、あなたが大事にしている哲学は何ですか?旅人が北極星をガイドにして道なき道を行くように、自分の哲学を北極星にして「哲学に合う・合わない」とシンプルに判断する。この訓練を積むことで、いざというときにも素早い決断ができるのではないかと思います。大きな決断の経験は人を成長させます。人間万事塞翁が馬。今、ひとつの決断で逆境が好機となるかもしれません。

【落ちているお金に気付く人、気付かない人】《令和2年4月掲載》

「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」。これは発明家トーマス・エジソンの有名な言葉です。コップに水が半分入っているとき「まだ半分もある」と考えるか「もう半分しかない」と考えるかという「コップの水理論」も有名です。どちらにも共通しているのは、物事は捉え方によって意味合いが変わるということ。つまり、プラス思考かマイナス思考か。ポジティブかネガティブか――。このような話はよくご存じだと思います。でも、実際はどうなのか。そこで、あるユニークな実験結果をご紹介しましょう。実験によれば、ひとつのグループを半分に分け、片方は物事をポジティブに捉えるように誘導し、もう片方は常にネガティブな捉え方をするように誘導したそうです。こうして「ポジティブ」「ネガティブ」のベースを作った上で、少し遠い場所の喫茶店まで歩いて行ってもらいました。実験のキモはここからです。喫茶店までの途中、道にお礼(お金)を置いておくという仕掛けをしたところ、ネガティブグループはほとんどの人がお礼を見逃したのに対して、ポジティブグループの人は、ほぼ全員がお礼に気付いたというのです。ポジティブな人は自然と運が良くなるのでしょうか。ネガティブな人はチャンスに気付けないのでしょうか。事の真相は分かりません。けれど、物事の捉え方と出来事に相関関係があるのは確かなようです。

心理学者リチャード・ワンズマンが行った「運・不運」の実験によれば、運がいい人には「自分は運がいいから、いつかチャンスがめぐってくる」と考えて行動する共通点があるそうです。良い結果が出たら「自分は運がいい」と感じて、ますます「運がいい自分」を信じるようになる。失敗しても「運がいいからこの程度で済んだ」と考えるそうです。とはいえ、無理やりのポジティブはかえってストレスになりかねません。日頃からできるだけ物事の良い面に目を向けるように心掛けて、お礼に気付く側になりたいものですね。

【非常識より破常識】《令和2年3月掲載》

ネット環境の普及は、商売における既存の競争ルールを根底から変えてしまうようなビジネスモデルを生み出しています。例えば、モノを持たないという価値観に共感する人が増え、消費者の行動は「所有」から「レンタル」、さらには定額制サービスの「サブスクリプション」へと変化しているといわれます。

かつて車は「買う」ものでしたが、必要なときだけレンタカーを「借りる」ことができるようになり、今では「定額サービスで毎年、新しい車に乗る」という選択肢もあります。つまり、これまでと同じ製品やサービスでも、提供方法を変えることで新たな価値を生み出しているのです。それだけ消費者の価値観が多様化しているのでしょう。非常識な発想で差別化をはかることはできますが、奇をてらった突拍子もない「非常識」よりも、常識を疑って新たな価値を創出する「破常識」な視点のほうが、多様性の時代にはマッチしているように思います。

こんなことを考えるようになったのは、ある主婦の話がきっかけでした。食品はできるだけ新しい日付を選んで買う。これは主婦の知恵であり、一種の常識ともいえます。ところがその人は、今日明日のうちに食べるものなら古い日付を選んで買うと言います。「新しい日付から買えば残り期間の少ないものが取り残されて、いずれは期限切れで破棄処分される。古い日付から買えば処分品が減るかもしれないし、次の人は新しいのを買える」。彼女の考え方に目の覚める思いでした。日々の何気ない行動を振り返ってみたら「そのやり方じゃなくてもいいのでは?」と思うことがいくつかあり、そのひとつが古い日付を選んで買うことだったそうです。古い日付といっても1日か2日。それを買うくらい大げさなと思うかもしれませんが、あえて古い日付を選んで買う理由に、その人なりの新たな価値の創出を感じたのです。常識を疑う背景には、個人の発意や情熱、勇気ある決断といった「内側の発想」があります。多様性の時代の商売は、内側の発想に共鳴してもらえることが不可欠ではないかと思うのです。

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